厳冬期の西穂独標へ。【その3】のつづきです。

『あーっ!!!!!』

隊長はその瞬間を最初から目撃していたわけで。
あとから聞いたところ。

頭から後ろにひっくりかえっていったそうです。

で、そのまんまコロンコロンと数回転。

自分がどうなってるかわからないけど、とにかく止まらなければ!!

何を考えてたかあんまり覚えてないんだけど、とにかく何かをつかもうと思ったことと、
ピッケル刺さなくちゃ!っていうことだけ。

ピッケルが刺さったのかアイゼンがひっかかったのかただのラッキーか、稜線から10mくらい落ちたとこで停止。

後ろから追いついた2人組のおじさんと隊長が『止まれー!!』って叫んでたのも
なんとなく聞こえていたような。

これ以上落ちないようにアイゼンをしっかりきかせてピッケルをさしたところで
一息ついて全身チェックしてみる。

落ちた斜面がたまたま岩がぼこぼこ露出してたので、つかむところがあったのはラッキーだったのかも。
ただ打ちどころが悪ければ、それは逆に最悪な条件にもつながるわけだけど。

息切れがしていたからすぐに動けずに、ちょっと休憩するー!なんて上に向かって叫ぶ余裕がまだあったのんき者。

おじさんや隊長にちょっと休んでからこっち側に戻れ!って言われたのが
まっすぐ上に登るのではなくて、ちょっと戻るかたちで斜めにちゃんとした平らな稜線へ戻る方法。

で、カラダが大丈夫そうだったので稜線へ向かって一歩一歩、慎重に登る。

次に落ちたら、こんどは止まらないかもしれないから。

あと5m!

あと3mだぞ!

あと1m!!

そんな感じで励まされながら、稜線到着。

隊長はものすごくホッとしたようです。当り前か。

もう一度全身チェック。

ウェアがえらいことになっていた。
パンツの右側のうしろがザックリと横に一直線に裂けていて、左後ろの腰のところもちょっと切れてた。

あとはジャケットのフードもザックリ。

でもこれだけで済んだ。

まさかの捻挫、骨折ゼロ。
それはもうはっきり自覚できるほどの間接の頑丈さ!
あっちこっちぶつけたとこ、おもにウェアがやぶけたとこはたぶんひどい痣はできてそうだけど
一年中あっちこっちぶつかって痣だらけなワタシは痣の痛みには割と無頓着なわけで。
(会社のデスクにぶつかったりコピー機に激突したり。。。)

あ、あと擦り傷とか流血もゼロ。

そうそう。カメラも無事だった。
カメラバッグのふたは開けっぱなしだったんだけども、ラッキーなことに落ちないで
普通に納まってくれてた。

水の入ったグラスをぶんぶんまわしてもこぼれないのと同じ感じ?

このとき、隊長がもう今日は帰ろう!って言ったんだけど。

え?なんで?

大丈夫だから行こうよ!!


冗談じゃない!という表情の隊長を説得してまさかの登山続行です。

これはもう無事だったから言えることだけど、落ちた本人はその光景を目にしていないので
怖さがまったく実感できていないんです。

ただコロコロしてただけだから。。。
マット運動の逆でんぐり返し的な?

落ちていく瞬間から目撃して稜線に戻ってきたワタシをつかむまで生きた心地がしなかったのは隊長のほう。



とにかくここから先は無理しない、無理だと思ったら引き返すという条件つきで再出発。



独標直下は岩が露出していて、アイゼンをひっかけないように慎重に慎重に。。。






秋に歩いた吊り尾根。
いまの季節に歩けるときは来ないような気がする。

怖すぎて、いつか!なんてとても思えない荘厳なアルプス。



で、隊長が写ってませんね?

なんでかというと。。。



そのときアタシはココにいました。



ちょっとひいてみましょうか?

独標直下の鎖が露出してるところ。



どうしてもどうしてもこの斜面が登れなかったんです。怖くて。
もうヘタレと罵られようと怖いものは怖い!

がんばれば行けそうな気がしたんだけど、登ったら降りないといけないわけで。
その下りを想像するとどうにも。。。

しかも先にここで敗退したおばさまが岩の上に座って連れのおじさまが降りてくるのを
待ってるわけなんだけど、外した右手グローブが何かの拍子に手から離れて
そのまま風にとばされて奈落の底へ。

すごい勢いで。。。

もうそれを見た瞬間に、恐怖が襲ってきたわけで。

脚がもし少しでも滑ったらアタシが奈落の底かも(゜д゜lll)

鎖が独標までつづいてればよかったんだけど、あと数メートルのところで完全に埋もれてなくなってて
夏にきたときには鎖なんてなくっていいのにな~って思ったようなところで
雪山には必要なんだ!って思い知らされたところ。

鎖がなかったらここからの下りも怖かったと思う。



ちなみにピンクのやじるし方面が落ちたと思われるところ。

山頂で写真を撮ってる隊長が見えるけど、そんな姿は撮ってあげられない。
待ってるだけでせいいっぱいだから。
両手をフリーにしてカメラをバッグから出す余裕はぜんぜんナシ!



ここで待ってるときが一番カラダが冷えたんだけど、Black Diamondのソロイストロブスターががんばってくれて
このときまではぜんぜん大丈夫だった。

ここで初めて右手人差し指がしびれてきてグローブのなかで指マッサージをしてた。



ここらへんまで来るともう安心。
天気予報も当たって、風もそんなに強くなくなり気温も上がってきた。

それでもバラクラバはまだ凍ったまんまだったけど。

最高の景色のなかにいるんだけど、もう写真を撮るのもめんどくさい。

登山中のごっついグローブしたまま一眼レフって無理があるのかも。


滑落じゃありません。



小屋の目の前のところで、ワタシはオシリソリで楽しく雪まみれになってきたんだけど
隊長は今更の滑落停止訓練してました。

小屋に戻って、また西穂ラーメンをいただきます♪
量が少なくて、隊長的には3杯は食べないと腹八分目にもならないそうで。

お味のわりにはとても高いので、ワタシの分をわけてあげて1杯半で我慢してもらいます。



ちなみ山荘外あたりの気温はマイナス5.5℃くらいとありえないくらいの好条件だったこの日。
それでも登れないどころか転がり落ちた自分の情けなさを思うと悔しくなる。

山荘からの下りはウソみたいに優しいフカフカ雪の樹林帯。



だいぶガスがかかってきたけど、まだまだキレイなアルプスの山々。



途中でボッカしながら登っていく小屋のひととすれちがう。
ちょっとお話させてもらったけど、小屋にいたひととは全く正反対の感じのいいおにいさんでした(^∀^)







そんなわけで無事に下山してまいりました。

この写真だとわからないけど後ろ姿はすごいことになってるボロボロアウターのくっきー♪

いろんな反省点を一緒に連れて帰ってきたわけだけど。

本当に初めての雪山として選ぶ山でなかったかもしれない。
順当に天狗岳とか硫黄岳とか、素直にみなさんおすすめエリアから行くべきだったと反省。

あと体力のなさが露呈。
隊長は腕力と雪面に蹴りこむ脚の強さで技術の無さをカバーできたけど、なんにもないワタシは
夏山のように勢いではクリアできなかった。

これからも雪山にきたいならば、技術もどうにかしないといけないんだけど
それ以前の体力をつけないと!と反省しました。

そんなわけで幽霊ではなく、ちゃんと生きてるくっきーが西穂初心者レポをお送りしました(^∀^)

おしまい。